股関節班は50年以上の長い歴史で培われた先人の知恵と経験、またその臨床研究に裏付けられた治療方針をもとに日々の診療・研究に当たっています。 股関節疾患はよく「ゆりかごから墓場まで」と言われるように、乳幼児の発育性股関節形成不全(旧:先天性股関節脱臼)から、小児のペルテス病・大腿骨頭すべり症、若年者の寛骨臼形成不全・特発性大腿骨頭壊死症、高齢者の変形性股関節症などまで非常に幅広い年齢層が治療の対象となります。北大股関節班ではそのすべての年齢層の治療に従事しております。大学での専攻医研修修了後に関連病院で経験を積むことで早い段階で股関節外科医を育成するシステムを構築することが可能となっています。
2013年から発育性股関節形成不全(DDH)専門外来を開設し、早期治療を目標に診療を行っております。RB装具での整復不能例や年長児未治療例に対しては従来のoverhead traction法に工夫を加え(2016年からhome tractionも導入)、非観血的かつ愛護的な整復を行っております。最近では、脱臼度の強い症例に対してはpre-traction後にRB治療を行うことでoverhead tractionに移行する患児を減少させることができました。このような試みにより観血的整復術は数年に1例程度に激減しております。
遺残性寛骨臼形成不全に対しては2017年から骨移植を要さないSalter変法(AIO)に変更し、年間10症例以上の手術を行っています。従来のSalterと異なり、骨切り部の腸骨骨膜を剥離せずさらに腸骨採取をしないことにより、出血量は少なく、手術時間も大幅に短縮し(30~45分程度)したため低侵襲の手術法となりました。
特発性大腿骨頭壊死症(ONFH)に対しては、厚生労働科学研究委託事業難治性疾患実用化研究事業の研究分担者として、新規骨粗鬆症治療薬による大腿骨頭圧潰予防の臨床研究、ONFH発生に関わる多施設ゲノム解析、骨頭温存手術(主にCVO)の長期成績改善に向けた臨床研究を行っています。また、大腿骨頭軟骨下脆弱骨折(SIF)の治療に関する臨床研究を行なっており、日本整形外科学会を含む各全国学会のシンポジストとして治療成績を発信しています。さらにONFHや急速破壊型股関節症(RDC)の病態メカニズムの解明などを行うTranslational Researchを保健科学院と共同研究を行っており、成果を報告しています。
若年者の臼蓋形成不全・亜脱性股関節症に対する関節温存手術として、当科では2007年から骨移植を行わずにより正常な股関節形状を獲得するERAOを行っています。また、荷重分布応力解析をもとに長期成績のさらなる向上を目指した研究も行っています。
人工股関節全置換術(THA)は一般的に高い患者満足度を得られる手術法で整形外科分野での20世紀最大の成功と言われる一方で、欧米人と比較して体型の小さい日本人に適したインプラントデザイン・サイズが上市されていないことが課題でした。そこで、当院で股関節手術を受けた症例の3次元CTを解析することで日本人に適した大腿骨サイズバリエーションを明らかにし、さらなる長期臨床成績向上を期待できるポリッシュテーパーセメントステム(VLIAN:ブライアン【帝人ナカシマメディカル】)を開発しました。2018年11月に全国展開してから症例数が増え、現在ではセメント固定を行うステムインプラントの国内シェアの第2~3位(国産の国内シェアでは第1位)を占めています。術者にも患者さんにも優しいVLIANステムのユーザーが今後もますます増えていくことが期待されます。