上肢関節外科として、鏡視下手術および人工関節置換術、各関節の不安定に対する靭帯再建術、関節形成術を行っております。また、末梢神経・腱・血管損傷に対する上肢機能再建、先天異常に対する治療、マイクロサージャリーを行っております。
さらに、基礎研究を基盤とした新規治療法としてアルギン酸ゲルを用いた軟骨再生治療や、手関節における人工関節の開発など、日本発の新しい治療方法を世界に発信し、高く評価されています。
肘関節は非荷重関節とされ、膝や股関節と比較して軟骨損傷に対しては、手術的治療の適応は限られていると考えられていました。しかし、治療が必要となる肘軟骨損傷は、野球選手をはじめとする若年者アスリートに好発します。自然修復能に乏しい軟骨の損傷に対し、硝子様軟骨による修復を可能とする治療法として、骨軟骨柱移植術と軟骨再生治療法があります。本グループでは、これらの手術法を若年者アスリートの上腕骨小頭離断性骨軟骨炎を中心とする肘軟骨病変に対して世界に先駆けて行ってきました。これらの治療法は国際的にも評価され、本グループから世界初の治療法として現在、検証的治験が行われ、認可への準備が進められております。
肩関節は人体最大の可動域を有するため、骨による安定性よりも、筋・腱・靭帯・関節包といった軟部組織により安定性が得られます。そのため肩関節疾患の病態では軟部組織の障害が重要となります。従来の研究手法では静的な環境下における評価が多く、生体内で動的に評価した研究は稀でした。本グループでは、生体内における生理的な環境下での関節運動を動的に評価することを目的とし、4次元CT(4DCT)撮影と3次元骨モデルを作成し独自に開発した解析ソフトを用いて、関節の動作解析を行っております。臨床研究や画像解析研究により得られた知見は英文雑誌にも数多く掲載され、国際的にも高い評価を受けています。
肩における人工関節置換術は比較的難易度が高い手技であることからラーニングカーブが存在していることが報告され、安定した手技の確立まで15-20例の経験が必要と考えられており、本邦では実施するために資格の獲得が必須となっております。そこで本グループではCT-based GPSナビゲーションを使用した人工肩関節置換術を行っております。人工肩関節置換術をはじめて行う医師でもナビゲーションを使用することで関節窩のインプラント設置を、経験者と同程度に正確に設置することが可能であることを証明しております。得られた知見は英文雑誌にも掲載され、国際的にも高い評価を受けています。
関節リウマチ(RA)による手関節障害は極めて罹患率が高いものの、本邦では臨床使用可能な人工手関節は実質的に存在せず、高度なRA手関節に対しては、全手関節固定術が選択されてきました。しかし、全手関節固定術は、除痛効果が得られる一方、手関節の可動性の消失により日常生活動作(ADL)が低下します。当科と帝人ナカシマメディカル株式会社とで共同開発した日本初の人工手関節である“DARTS人工手関節”(DARTS Total Wrist System)は、RAによる手関節の高度な破壊症例に、2017年より臨床使用が可能となりました。その良好な臨床成績は世界に向けて発信しています。さらに最近では、高度に進行した変形性手関節症例にも適応が拡大され、高い関心が寄せられています。
キーンベック病は、手根骨の一つである月状骨に何らかの原因により虚血性変化が生じ、骨硬化、圧潰、分節化などを特徴とする壊死性疾患です。青壮年の男性で手を酷使する職業の人に多いですが、時に若年者や高齢者に発症する場合もあります。その原因は、反復性小外傷、橈尺骨長の不均衡による月状骨への応力集中、月状骨の形態異常、局所の血管走行異常などの多くの因子が複雑に関与していると考えられていますが、未だ一定の見解は得られていません。本グループの治療方針は、年齢やX線学的病期分類により決められています。現在行われている手術治療は、1)月状骨血行再建術、2)月状骨除圧術、3)月状骨の摘出・置換術、4)関節症性変化が進行した症例に対するsalvage手術の4つに大別されます。月状骨除圧術の一つである橈骨短縮骨切り術における長期にわたる臨床研究や画像解析研究により得られた知見は英文雑誌にも数多く掲載され、国際的にも高い評価を受けています。
手根管症候群や肘部管症候群などの絞扼性末梢神経障害において、神経内の微小血行動態の変化が病態に関与することが指摘されています。新しいイメージング技術である造影超音波検査やSuperb Micro-vascular Imaging(SMI)を用いて、微細で低流速の神経内血流を計測することで絞扼性末梢神経障害の病態解明の一助としてだけでなく、補助診断ツールとしても注目されています。これらの得られた新しい知見は英文雑誌にも数多く掲載されており、国際的にも高い評価を受けています。
デュピュイトラン拘縮は、手掌腱膜の線維性増殖に伴う肥厚により手指の不可逆性の屈曲拘縮(伸展制限)を生じる疾患であり、日常生活動作に著しい支障をきたします。デュピュイトラン拘縮における発症・進行メカニズムの解明についての基礎研究は、手術で採取したデュピュイトラン拘縮患者の手掌腱膜組織を使用し、2013年より開始しています。TGF-β1は、筋線維芽細胞の増殖や手掌腱膜における線維化の進行において重要な役割を果たしていることを確認した上で、病的手掌腱膜組織中の“nodule”と呼ばれる結節性病変部が線維化の活性化部位であることを発見し、英文雑誌に報告しています。現在は、遺伝子病制御研究所分子神経免疫分野の村上正晃教授と共同研究と行い、本疾患の発症・進行において、慢性炎症、特にIL-6の増幅回路(IL-6アンプ)の関与を明らかにし、その特定の制御因子を抑制することで抗線維化作用を示すことを検証しています。
手指や足趾の先天異常は多岐に及びますが、その中でも多指(趾)症、合指(趾)症は比較的頻度が高い疾患です。本グループでは道内有数の症例数に対応し、機能面、整容面の改善を目的に治療を行っております。本疾患の特徴として、同じ疾患でも皮膚、腱などの軟部組織や骨の形態が多彩で各々異なる点が挙げられます。特に関節の傾斜や適合性が不良であると、将来的な変形の原因となる可能性もあるため注意が必要ですが、小児は骨の成長の途上であるために、レントゲンでは関節の正確な評価が困難です。手術方針の決定、治療成績の向上を目的として、術中の関節造影検査を実施しており、その有用性を検証し、英文雑誌にも報告してきました。一連の研究を通じ、個々の症例に最適な治療を提供することを目指しています。